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最高裁判所第一小法廷 昭和49年(行ツ)94号 判決 1976年5月06日

上告人

神奈川県地方労働委員会

右代表者

佐藤豊三郎

参加人

油研工業株式会社

右代表者

結城重一

右訴訟代理人

馬場東作

外三名

被上告人

総評全国一般労働組合神奈川地方本部

右代表者

三瀬勝司

外三名

右四名訴訟代理人

山内忠吉

外二名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

参加代理人馬場東作、同福井忠孝、同佐藤博史、同高津幸一の上告理由について

論旨は、要するに、被上告人佐藤、同四海、同鈴木(以下「被上告人ら三名」という。)は参加人会社において就労していた者ではあるが、その法律上の雇用主は有限会社東神設計所であつて参加人会社ではないから、参加人会社が被上告人ら三名の労働組合法上の使用者にあたるとした原審の判断は、同法一条、三条、七条の解釈を誤り憲法二八条に違反したものである、というのである。

原判決が確定した事実関係は、おおむね次のとおりである。

(一)  油圧器の製造販売を目的とする参加人会社藤沢工場では、かねてから油圧器装置に関する設計図の製作を社外の業者(以下「外注業者」という。)に請け負わさせ、これら外注業者からその従業員の派遣を受けたうえ、参加人会社の作業場内において発注にかかる設計図の製作にあたらせていた(右派遣従業員を以下「社外工」という。)。被上告人ら三名は、後記のような経緯により、昭和四一年当時は有限会社東神設計所所属の社外工として参加人会社で就労していた者である。

(二)  ところで、参加人会社に社外工を派遣する外注業者には、資本金一〇〇万円、従業員二、三〇名を擁するような会社から、数名の社外工自身が社員である有限会社や、社外工のグループ又は社外工個人が事実上会社名を名乗つているにすぎないものに至るまで、多様な形態のものが存在し、しかも、それらは短期間のうちに離合集散を重ね、その構成員の変動も極めて頻繁であつたが、参加人会社は、社外工を受け入れるにあたつては、かかる外注業者の実態については全く無関心で、社外工本人の履歴書、住民票の提出を求める等個人の技能、信用に着眼して人物本位に受入れを決定しており(個人が会社名を名乗ることも放任していた。)、また、社外工の勤務態度や技術程度が不良であるときは、外注業者にその者の派遣を中止させ、外注業者が独自に代わりの社外工を派遣することは認められていなかつた。

(三)  参加人会社に受け入れられた社外工は、同会社従業員の勤務時間と同一時間事実上拘束され、同会社従業員と同一の設計室で、同会社の用具等を用い、同会社職制の指揮監督のもとで、同会社従業員と同一の作業に従事しており、その間それぞれ所属の外注業者から作業や勤務等につき指示を受けることは全くなかつた。しかし、社外工には、参加人会社の就業規則は適用されず、また、同会社から有給休暇や退職金を与えられることもなかつた。

(四)  社外工の作業に対しては参加人会社から外注業者あてに請負代金名義で対価が支払われたが、その金額は、各社外工につきその労働時間又は出来高に応じて計算した額を合算したものであり、これを各社外工がそれぞれの作業実績に比例して分配していた。

(五)  被上告人四海、同鈴木は、昭和三六年八、九月ごろから有限会社三立設計所属の社外工として参加人会社に派遣され、同三八年八月右三立設計が解散したのちも事実上同会社名を用いていたが、その後三立工業なる他の社外工グループの名義を借用してその所属であると称し、更に、昭和三九年四月ごろには両名だけで法人格を有しない有限会社東神設計なる会社名を名乗つて就労していた。また、被上告人佐藤は、昭和三七年四月から有限会社湘南工業所所属の社外工として参加人会社に派遣されていたが、右湘南工業所を退社したのちも個人で同会社名を名乗つて就労していた。しかるところ、参加人会社から会社登記をしていない外注業者に対し納税関係上登記をするようにとの要請があつたので、昭和三九年六月二日、被上告人ら三名は有限会社東神設計所の設立登記をし、被上告人佐藤の父が代表取締役、同被上告人が取締役、被上告人四海が監査役となつた。しかし、これは、被上告人ら三名が法人格を具えた外注業者から請負契約に基づき派遣された社外工であるという体裁を整えるための形式であつたにすぎず、前記のような参加人会社との間の労働関係の実態にはなんら変化がなかつた。

以上の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、すべて首肯しうるところである。

右のような事実関係のもとにおいては、たとえ被上告人ら三名に対し参加人会社の就業規則が適用されていなくても、両者の間には労働組合法の適用を受けるべき雇用関係が成立していたものとして、参加人会社は被上告人ら三名との関係において同法七条にいう使用者にあたると解するのが相当である。被上告人佐藤、同四海が有限会社東神設計所の役員であることは右の結論を左右するものではない。それゆえ、これと同旨の結論をとる原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岸上康夫 藤林益三 下田武三 岸盛一 団藤重光)

参加代理人馬場東作、同福井忠孝、同森田武男、同佐藤博史、同高津幸一の上告理由

第一、原判決は憲法第二八条に違反し労働組合法第一条、第三条及び第七条の解釈を誤りたる違背があり、その破棄を免れないものである。

一、第一審判を認容した原判決は、労組法第七条にいう「使用者」とは、被用者を使用してその労働力を処分する者……であるから、雇用契約上の雇用主の他にも被用者の人事その他の労働条件等労働関係上の諸利益に対し、これと同様の支配力を現実かつ具体的に有する者をも含むと解すべきであつて、……社外工として……現実に労務を提供する相手の労働者受入企業との間には直接何らの契約関係がない場合であつても、労働者受入企業の被用者と一諸に労働者受入企業の工場で就労し、しかも労働者受入企業の決定する職場秩序ならびに労働者受入企業の直接的指揮監督下におかれ、労働者派遣企業がこれらの点につき何らの支配力をも有しない場合には労働者受入れ企業そのものが労働法上の使用者であつて労労働者派遣企業は使用者でないといわざるをえない」と判示した。

しかしながら第一審判決が前記労働者派遣企業と労働者受入企業との関係を考察する根拠を職業安定法第五条第六項第四四条第四五条同法施行規則第四条及び第五条に求めたが、第一審判決の理論の不当なることを上告人が指摘したところ原判決も職業安定法及び同法施行規則を参酌して「使用者」及び「労働者」の概念を決定することの不合理を認め、第一審判決の右理由部分を取消し、原判決は「社外工」と労働者受入企業との関係が常に労組法第七条にいう「労働者」と「使用者」にあたるというのではなく、両者間の事実上の支配従属関係が説示のような場合――いいかえれば、同条による規制をしなければ労組第一条一項の目的を実現することが困難と考えられるような事実上の支配従属関係が存在する場合に限るのであつて、両者間の関係が右の程度に至つていない場合には労組法第七条にいう「労働者」「使用者」にはあたらない。すなわち、事実上の雇傭関係に準ずるような支配従属関係であつて、具体的と訂正した。結局原判決の「使用者」「労働者」の概念は両者間の事実上の支配従属関係を労働組合法第七条によつて規制しなければ、同法第一条第一項の目的を実現することが困難と考えられる場合に限り両者を「使用者」及び「労働者」とするものとしているものである。

原判決は一見労働組合法第一条第一項の目的から判定するということで一見、合理的かのようにみられるが、同法の「使用者」及び「労働者」の決定は飽迄も両者間に事実上、法律上の支配従属の関係が存したか否かによつてのみ決定せらるべきものである。

二、労働法上の使用者と労働者との関係は両者間に使用従属の関係があるか否かによつて決定されるべきものであり、この使用従属関係があつてこそ初めて労働者保護のための労働法の適用を受けるものである。

本件につきこれをみるに、上告人会社(以下単に会社と略称する)と東神設計との間に設計作成の請負契約が存在し東神設計がその請負契約に基づきその義務履行として包括的に出向人員を定めてこれらを会社に派遣し、その出向人員をして会社設計部の指示する業務に従事せしめているものに外ならないのであつて被上告人佐藤ら三名は東神設計との間に使用従属の関係を有しているにすぎないものである。

このことは東神設計より出向して来た佐藤らに対し会社においてはその従業員を規律している就業規則を適用していないこと並に代金の支払方法が従業員に対する賃金の支払方法と著しく異ることによつて明らかである。

一般企業において就業規則の役割はその従業員に対する労働条件を画一的統一的に設定し規律し、企業秩序を維持し、その違反者に対し制裁を以つて臨むものであり、労働力に対する支配、即ち使用従属関係を律するのに必要不可欠のものである。

従つて出勤、退勤等労働時間等が一定の企業秩序に服したとしても、本件の場合のように就業規則の適用がなく企業秩序違反者に対し制裁を課しえない事情に徴すれば、労働法上の使用従属の関係は存しないものといわなければならない。

就業規則は従業員の雇入、配置、業務指揮、服務規律、徴戒、労働条件、解雇等労働力の事実上の支配を規律するものであり、このように規律される状態こそ使用従属の事実関係というべきであつて、就業規則の適用がない以上、労働力提供の場所その時間が労働者受入企業のそれと一致したとしても使用従属の関係にあるとは到底言えないものである。就業場所、就業時間及び作業指示等が画一的に定められることは共同請負による建築業務及び大規模な造船業務については必然的にみられる現象であるが、そのいずれについても、出向を命ぜられた従業員(社外工)が如何なる形態による使用従属の関係にあるかを考察する場合はその主な要素となるものは就業場所、就業時間又は作業指示ではなくして、その出向を命ぜられた従業員の採用、配置指示、服務規律、懲戒関係が如何なる状況にあるべきかによつて決せられるべきものである。

労働契約を締結するか否かの自由がなく、更に労働条件を協議決定していく契約当事者能力を欠く出向者に労働者受入企業との間に直接的な使用従属関係を認めることは契約自由の原則に反するばかりでなく却つて労働者の地位の保護にも反するものである。

なお労組法上には「使用者」の定義は直接明記されていないが、同法第二条の使用者の利益代表者を不当労働行為救済制度上の「労働者」から除外している趣旨からしても総ての会社役員、理事会又はこれに類似するものの構成員は「労働者」より除かれるものであつて、ましてや有限会社東神設計の代表取締役である被上告人佐藤及び同社監査役四海は有限会社の東神設計の使用者たる地位にあることは登記簿上も争いないところであり、これら使用者が会社に関する関係で「労働者」たる地位を有するものでないことは云うまでもないところである。

被上告人佐藤及び同四海は同鈴木に対して使用者たる地位にあり、且つ有限会社東神設計を代表して会社との間に請負契約を締結して来たものである。

三、被上告人ら三名の労務の提供が東神設計と会社との請負契約の義務履行に過ぎないものであり、会社と被上告人ら三名の間に労組法上の使用従属関係の存しないことは既に述べたが、被上告人らが会社に労務を提供するに至つた経緯をみればなお一層明らかになる。

四海は昭和三五年八月頃同人の友人である黒田某に誘われ有限会社京浜技術工業所の中島社長の面接を受け同社に雇傭された上会社に派遣されて設計業務に従事したものであり、右有限会社京浜技術工業所は社員一四、五名を雇傭しており、会社のみならず他の会社にもその従業員を派遣していたものであり、鈴木も同様会社に派遣されて設計業務を行なつていたものである。

従つて四海、鈴木は会社と関係を持つた当初より採用面接は有限会社京浜工業所の中島社長によつて行われたものであつて会社において採用の可否を決したものではなく、このことからみても会社には右両名につき人事管理の権限は存しなかつたものである。

その後昭和三六年三月会社と有限会社京浜工業所との請負契約が解約されたため同会社に所属していた四海、鈴木らは京浜技術工業を退社して三立設計有限会社を設立し、石川島播磨重工業や三菱重工業にも人員を派遣して設計業務に従事し、その間四海、鈴木は会社とは関係がなかつた、昭和三八年より会社から右三立設計有限会社(五反田所在)宛設計要員の派遣方の要請があり、同年一〇月頃から四海、鈴木が会社に同設計事務所から派遣され再び設計業務を行うことになつたものである。

佐藤欽三は、昭和三七年六月頃有限会社湘南工業の伊藤社長に誘われて同社に入社し同社より会社に派遣されていたが、その労務に対する対価については、佐藤は湘南工業より、四海および鈴木は三立設計よりいずれもこれを受けていたが、湘南工業、三立設計が会社から設計料を一括受預し、それぞれ会社費用を控除して同人らに支払つていた関係から中間天引されることを嫌い右三名は昭和三九年二月頃、湘南工業、三立設計をそれぞれ退社し、新たに有限会社東信設計を設立したとして会社に届出た。

東信設計を設立したのは、四海らの全く自発的意思によるものであつて、会社はこれに何らの関係も有しない、会社は四海らが東信設計をを設立したので三立設計、湘南工業同様請負契約を締結して欲しい旨申出があつたので、会社は改めて東信設計と請負契約を締結するに至つたものである。

四海らが会社において設計業務を行うに至つた経緯は前記の如く当初より三立設計、湘南工業より派遣されて来たものであり、同人らと会社との間に雇傭契約関係の発生するる余地は全く存しなかつたものである。

会社は四海らの申出により有限会社東信設計と請負契約を締結し設計料を一括して東信設計に支払つて来たが、その後右東信設計が未登記であることを知つたので、伊佐山部長より同人らに対し、未登記であるならば一〇パーセントの源泉税(所得税法二〇四条、同施行令三二〇条2号によるもので、会社としては賃金として認めていなかつたことを明らかにする)を控除しなければならないし、責任の所在を明確化するためにも法人登記をすることが望ましい旨要請し、四海、鈴木及び佐藤が中心となつて同年六月有限会社東信設計の設立登記をなし、名実とも東信設計は独立した法主体となり、右同人らは東信設計に所属して設計業務を行つていたものである。

原判決が認容した第一審判決は「参加人会社が昭和三九年四月ごろからかかる外注会社の法人格化を計つたのに対応し、原告三名は他の法人格なき外注会社の社外工を糾合し有限会社東信設計所を設立したもののこれは、法人格を備えた外注会社から請負契約に基づき派遣された社外工との体裁を整え、給与格差を是正する目的のためにのみ設立されたものという他なく」と認定しているが、東信設計が設立されたのは、四海らがその利益を保持するために自主的に決定したものであつて単に体裁を整えるための会社の方針によつたものでないことは明白であり、第一審判決を認容した原審判決も重大な事実を誤認したものというべきである。

四、一方、会社と東神設計との間の金員(請負代金)の支払方法をみるに、東信設計が会社との間において法人間で設計料金の改定につき交渉を行つて、合意を行い、東神設計が会社に対し毎月末日限りその従業員の設計料に応じて一括して請求書を提出し会社は翌月一〇日に一通の小切手を以つて東神設計代表取締役に一括して払い、東神設計がその内部の取決めにより独自の計算によつて東神設計の運営費用、公租公課、社会保険料を控除した上、被上告人らに対し金員を交付していたものであつて、会社は被上告人ら各個人との間には賃金につき交渉したことも協議した事実も全くなく、会社は労働法上の賃金即ち「賃金給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず労働の対象として使用者が労働者に支払うすべてのもの」を佐藤らと交渉取決めしたことも、支払つた事実も全く存しなかつたのである。労働の対価たる金員が如何なる名称によるかに拘らず、佐藤ら個人に支払われていないことは「労務の提供」即ち使用従属関係が同人らと会社との間に存在しなかつたことを証明して余りあるものである。

被上告人佐藤らの労働条件、特にその最も重要な賃金が、同人らと東神設計との協議によつて決定されたものであり会社は同人らが如何なる計算方式により貸金を取得するのか亦、いかなる金額が東神設計によつて社内留保されるかは全く与り知らないところであり、会社は専ら東神設計との間の請負契約による設計料金を支払つたに過ぎないものであつて、金員支払の面からみるも、被上告人佐藤らとは直接的には如何なる関係をも有しないものである。

被上告人佐藤らは自己の労働条件の向上、労働者の地位の確保等労働法上の諸権利の獲得、維持を主張し得る相手方は東神設計であり、団体交渉権、団結権の相手方も東神設計であつて、東神設計がこれら従業員の諸要求をふまえた上で独自の資格により会社に設計料金の増額等、料金改定の要求を行い料金を決定するものであつて、このことは取引企業間において、他企業の従業員が、その企業と取引する関連企業に対し直接自己の賃金等労働条件につき交渉し得ないことと全く同一であつて、使用従属の関係なきところに、直接企業に対する賃金の交渉、その受領権限なきことは明白なものである。

原判決が、被上告人らと会社との関係が、民法上の雇傭契約でなく、また、就業規則の適用がなくとも、労組法上は両者の間に直接雇用に準ずる雇用関係の実質的に成立していると認めた根拠は、原判決の援用する第一審判決に明らかなように、「会社は被上告人ら三名を自己の決定する職場秩序に組み入れ、その作業を直接、具体的かつ現実的に指揮監督し、以つてその作業過程を支配しているみのならず、右三名ら各自の労働過程への編入、排除等につき雇用契約上の雇主に準ずる支配力を有し、更に右の三名が有限会社東神設計所より支払を受ける賃金額をも間接的に決定していたのに対し、東神設計は、右三名各自の作業につき全く支配力を有せぬばかりでなく会社の労働過程への編入、排除につき独自の支配力を維持しているとは解し難く、東神設計の三名の賃金額に対してなす決定は名目的なものであるにすぎない」と認定しているところに存するものと認められる。

しかしながら、会社と東神設計との間には偶々右三名が法人なき社団を形成していたという過程は存するけれども、右社団段階においても代表者を選任して、右代表者との間に請負契約を締結し、その請負代金は、右代表との間に、法人格を有する他の設計外注会社と同様、広く設計協会において採用されている設計製図単価表によつてこれを定めていたもので、労働条件のように、被上告人三名と会社との間において賃金交渉をして定めたものでない。また、会社の労働過程に編入されたように見えるけれども、本人の勤労の成果は、専ら個人の出来高いかんに係るものであつて、考課の対象とはなりえず、通常の会社設計事務に従事する正規従業員とは著しく異つた取扱いを受けていたものである、さらに右労働過程への編入、排除についても、本件三名が正規従業員と偶勤務する場所を同一にしていたというに過ぎず、他の外注設計会社の従業員はすべて外注設計会社の提供によるものであつて、労働過程への編入、排除は、外注設計会社を通じてなされるものである。本件三名が構成する社団が法人格化してからは、やはり、右外注設計会社の例にならい、有限会社から派遣される形態をとつていたものである。従つて、編入、排除につき、会社が労組法上の使用者に準ずるというのはことさら、右三名を労組法上の保護下に収容せんとするにひとしく実態の把握を誤まつているといわざるをえない。

また、東神設計が、本件三名に対し、独自の支配力を有していたとは認め難いとするけれども、請負代金の請求は、東神設計自らこれを行い法人として負担すべき税金その他雑費を控除した後、残額を内部的協議によつて三人に配分していたものであるから請負代金の配分については東神設計が全責任を有し、この点に関する限り、三人に対し独自の支配力を有し、従つて会社への編入、排除も法律的には可能であつたのであるから、この点に関しても三人に対する支配力を認める根拠は十分である。偶々東神設計の経営が微力であつたために、会社以外の他の会社への労働力の供給等に欠けるところがあつて、その利益を三人に配分しえなかつたに留まるものであつて、経営努力が足りなかつたに過ぎないものであり、会社と東神設計との請負契約の解除即被上告人佐藤ら三名の失業をまねいたものではない。

五、被上告人佐藤ら三名と会社との間には労働法上の労使関係が存在せず、同人ら三名が会社設計部に派遣されたのは専ら同人らと東神設計との間の請負契約の業務履行に過ぎないことは既に詳述したが、その例証たる事実の二、三を追加してこれを明らかにする。

① 東神設計が一箇の独立した法人であることは明らかであり設計外注会社の離合集散の結果東神設計ができたものであるが、これを会社に通知した際にも東神設計名義を使用しており(乙第一七号証)、このときは法律的には未登記の時代であるが会社が下請会社には法人たることを要求していることを熟知しているからこそ有限会社の形式をとつていたものであり、未登記時代においても請負代金の請求は東神設計の名においてなされ、その受領も東神設計として受取つていたことは登記後と何ら変らないものである。(乙第一五号証の一、二)

② 被上告人ら三名の会社に出されている履歴書(乙第二二号証の一乃至三)には被上告人ら三名がいずれも東神設計の従業員であることを明記されている。

③ 請負代金の改定についても被上告人ら三名とは全く交渉せず、東神設計から会社宛要望書(乙第一六号証)が提出され、会社が東神設計の代表者と交渉して決定している。

④ 会社と東神設計との間に請負契約が締結され乙第二三号証に示されるような設計製図単価表によつて出来高を計算して東神設計に代金が支払われているが、設計製図作成時間を基準とする時間計算による請負代金の支払方法も機械設計業界においては一般に広く認められているところである。(乙第一九号証)

以上各観点より考察したとおり会社と被上告人ら三名との間には労働法上の労使関係が存在しないものであり、会社が「会社が組合員三名との間に労働契約の存在が認められない本件においては同人らの仕事を打ち切つたことは東神設計との請負契約を解除した結果に基づくものというべくそこに解雇を論ずる余地はなく上記解除を不当として他に救済を求めるならば格別不当労働行為として当委員会に救済を求めるのは失当である」と判断し神奈川県地方労働委員会昭和四一年(ネ)第八号不当労働行為救済申立を棄却したことは全く相当なものである。

労組法上の使用者とは、使用者として労働契約によつて労働者を雇い入れて契約上の当事者となつているものとするのが通説であり、(労働法実務体系4「団体交渉、労使協議制」石井照久四四頁)判例も憲法二八条は「企業者対勤労者すなわち使用者対被使用者というような関係に立つものの間において、経済上の弱者である勤労者のために団結権乃至団体交渉権を保障したものに外ならない」(板橋食糧人民管理事件、最高裁大法廷(判)昭二四・五・一八)としているし原判決のいうような実質的使用者理論からいえば職業安定所は自由労働者でなくても、かれらの労働条件に影響を与えうる地位に在るから職安も自由労組の団交の相手方となしうる(季労刊働法六二号浅井清信「社外工」一三一頁)筈であるが、判例は自由労組が事業主体である市の市長の諮問機関である失業対策委員会に陳情したりすることはいずれも「使用者対被使用者」間の交渉ではないとしているのであつて、(小樽市合同労組事件、最高裁第二小法廷判昭二七・一一・二一)自由労組の職安との団体交渉は否定されるのである。

従つて、本件の場合において、使用者対被使用者の関係を会社と被上告人らとの間に認めえない、すなわち労働契約の当事者でないことが明らかである以上、神奈川地労委が不当労働行為として救済申立を棄却したことは相当であるといわねばならない。もとより会社も使用者であるかどうかの判断を法形式にのみよるべしと主張するのではないが、実質的観察によるも被上告人らに就業規則は適用されず、給与の支払も請負代金として東神設計より同社の必要経費を差引いて支払われており会社と東神設計との間には請負契約が存在していた等の事実に徴すると、実質的にも会社と被上告人ら三名との間に使用者対被使用者の関係を認めることはできない、前掲季刊労働法による論作は、社外工の法的性質を探究し、これに労働法的保護を与えようとする見地からなされた学問的労作であつて、傾聴すべきところ少くはないけれども一挙に社外工と親会社との間に「直接雇用に準ずる雇用関係が実質的に成立している」から会社は労組法第七条にいう「使用者」であると解せざるを得ないとした原判決は実定法秩序を逸脱した判決というべきであつて、畢竟事実を誤認し、且つ憲法労働組合法の解釈を誤まつた法令の違背があり速かに取消さるべきものである。

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